本日も感想文

読んだこと、観たこと、聴いたことの覚え書き

ユリゴコロ 沼田まほかる

映画の感想を書いた後ですが、原作の感想も書いておこうかなと思います。映画も大好きですが、原作も大好きです。

 

ざっくりなあらすじ

ある一家で見つかった「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。この一家の過去にいったい何があったのか―。絶望的な暗黒の世界から一転、深い愛へと辿り着くラストまで、ページを繰る手が止まらない衝撃の恋愛ミステリー

 

個人的感想

告白文が怖いです。丁寧なですます調のせいか、あまり感情が乗っていない言葉の選び方のせいか、淡々としているからこそ余計に怖いです。殺人の描写も細かくて、結構グロテスクですが、文章はさらっとしています。他の場面より、殺人の場面の方が明らかに興奮している告白者ではありますが、それでも冷静に自分のやったことを記録として残している感じがします。感情が見えない。というより感情を知らない。サイコパスと呼ばれる人たちの心理は、こういうものなのかも知れませんね。人を殺すときにだけ、沸き上がる興奮状態。それを何度も反芻して、一人で味わい尽くして、でもそれではいつか物足りなくなる。もう一度その状態を再現したくて再現したくてたまらなくなって、また殺人を犯す。人を殺すことが、人道的にダメだとは分かっていても、その人の中では普通のことで、矛盾なんてないのかもしれません。

とにかく前半は怖いです。だけど読むのを止められない。朝の通勤時に読み始めたのは失敗でした。電車を降りる頃にはもう夢中になってしまって、歩きながら読もうかと思ったぐらいです。お昼休みもご飯を食べながら読み、仕事中も鞄から取り出して読みたくなるのを堪え、帰りの電車の中でも読み、家に帰ったら手洗いも着替えもせずに没頭しました。こんなにも続きが気になった小説は久しぶりでした。読み始めたら一気に読みたくなります。先が知りたくて仕方がない。殺人者の告白文に飲み込まれて、作品の中に引きずり込まれた感じでした。

物語のパワーが半端ないです。怖いのに読みたくて仕方がないんです。痛いとも感じるし、殺人はないよと思うし、どうしてこんなに感情が欠落しているんだと疑問も沸いてくる。殺人犯の気持ちなんて1ミリも納得できないんですが、読む手は止まらない。よく猟奇殺人をする人(サイコパス)は、人を引きつける魅力があると言いますが、その通りだと思いました。どうなるのか、何が起きるのか、それだけを知りたくて、突き動かされるように読み進めていきます。

前半でずっと感じていた恐怖心は、後半でガラリと形を変えます。宇宙人やサイコパスのようだった告白者が、「あなた」と出会うことで全く知らなかった感情を知る。夫への愛や、子供への愛。それを知ってしまった殺人犯のとまどいや驚き。そしてやがては幸せを感じるようになると、あんなに怖かったのに、なぜか感動に変わるんです。読んでいて泣きそうにさえなりました。道徳的には行けないことだと分かっていながら、この殺人犯が「あなた」や子供と一緒に、なんとか穏やかに暮らせないだろうか。どうか彼らが幸せになりますように、と願わずにはいられません。

ラストまでの話の流れは、辻褄を合わせようとした部分も少々ありましたが、最後はじんわりと胸が温かくなって、幸せな気持ちになりました。本当に不思議な小説です。怖くて痛くて目を背けたい殺人犯の告白をのぞいてみたら、あっけなく引っ張られて抜け出せなくなってしまう。それなのに最後には切なさがあふれてきて、二人の幸せを心から願い、自分も満たされた気持ちになっているんです。本当に不思議です。素直に「二人の素敵な愛の軌跡」とは言いづらいですが、究極の恋愛小説だと思います。とても好きな小説です。

ちなみに、映画とは設定が違います。物語の流れ的には断然小説。だけど映画は松山ケンイチさんがいるんです。そして吉高由里子ちゃん。本当にお二人が素晴らしかったので、小説も好きですが、映画も好きです。 

 

 

個人的満足度★★★★★

一気に読みました。もし家で読んでいたとしたら、一度も本を置かなかっただろうと思います。完全に没頭しました。途中、結構なグロさがあったり、ちょっとご都合主義的な話の持って行き方もあったのですが、こんなにも引き込まれる作品は滅多にありません。人にも自信をもっておすすめ出来る作品だと思います。(グロが苦手な人には厳しいかも知れませんが)。殺人のシーンは怖かったですが、意外にも夫婦の愛、家族の愛、子供への愛について考えさせられました。人間がひとつの側面ではなく、いろんな顔を持っていて、誰にでも知らない部分がある。そしてどんな人でも、他人のとんでもない秘密には、ダメだと知りながら、心動かされてしまうということも。

小説の醍醐味を、思いっきり感じることが出来る作品でした。殺人をする気持ちに共感できなくても、ご都合主義みたいに思っても、それでもこの二人が幸せになってほしいと思えたのは、それだけこの本の魔力に魅せられたから。何人も殺人を犯しているのに、読後はさわやかな気持ちにさえなりました。小説って道徳とか倫理観とか全部取っ払って、心で読むものなんだなと思いました。傑作です。